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写真日記


嬉しくて、寂しくて

今までバーンロムサイでは、「青少年プロジェクト」を立ち上げ、18歳を過ぎた子どもでもホームに住みながら学校に通うことが出来るようにとして来ました。しかし今年に入ってタイの法律が厳しくなったことから、18歳を過ぎた子どもは外に出なくてはならなくなり、バーンロムサイでもピーダーウ、ミルク、アーム、テンモー、ナット、ヌンの6名がホームを出て、外で暮らすことになりました。(スは進路が定まり次第外に暮らします)

全員まだ学生なので、学費と医療費に関しては今まで通りサポートします。また社会に出て働き始めるまで、学生が一人で生活するための平均的な金額、5000バーツ(約15000円)を生活費として毎月渡すことにし、その中には家賃、光熱費、食費、交通費、消耗品費などが含まれ、足りない分はアルバイトをして稼ぐようにと話しました。

学期休みの間に自分たちで、市内の学校へ通うのに都合の良い部屋を探し、学校が一足早く始まるピーダーウは10月30日に引越して行きました。最初の日は寂しくて泣いてしまったようです。
 
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出発するピーダーウは何度もホームを振り返っていました。

 
 
大学受験猛勉強中のナットは、試験が終わり結果が出るまで勉強を一緒にする友人の家に住むこととなり、すでに引越しを終え毎日遅くまで塾に通っています。
そしてミルク、アーム、テンモー、ヌンの4名が今日11月1日にホームを離れ、一人暮らしを始めることとなったのです。
 
  
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4名の引っ越し荷物

 
タイの古典舞踏を学ぶ高校へ通っているアームは、昨日自分のお小遣いで炊飯器とアイロンを買いました。皆、電気代がかかるからと、最低限の電化製品で暮らすそうです。「冷蔵庫は?」と聞いたら全員が声を揃えて「電気代がもったいない!」とのお返事。結構しっかりしています。

アームの借りた部屋には近くにコンビニや屋台や商店も沢山あるし、目の前が学校という最高の立地条件。もともと一人で居るのが好きな彼女にとって今日からの一人暮らしはとても快適だと思います。
 
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お湯も沸かせる炊飯器。アイロンとともに必需品です。

  
  
ヌンも学校から1キロ離れた場所に部屋を借りました。シンプルで清潔な部屋。今日は友だちが引越しの手伝いに来てくれていました。とにかく18歳の男の子がこんなに話すのか?!と思うほど、今日は学校で何があったとか、先生や友達がどうだったとか、工業高校に通う彼は毎日が楽しく充実していて、それを誰かに報告したくてたまらないのです。明日からはその報告をする相手だったお父さんやお母さんや兄弟たちは近くに居ない・・・。でもかつて見た事の無い良い成績で前期を終え自信に満ちた笑顔のヌンは、一人暮らしにも慣れてゆき、友だちたちと楽しく過ごし、自動車修理工の夢に向かって着実に歩いて行くと思います。
 
 
テンモーは昨年オートバイの交通事故で瀕死の重傷を負って1年間休学し、今年の5月からまた高校1年生として学校へ通い始めました。もう絶対大丈夫とは言われていますが、もうしばらくはなるべくホームに近い所に住まわせようと、車で10分ほどの所に部屋を借りました。彼女の部屋は運の悪い?ことに、スタッフのベンとエー2人の通勤途中にあります。毎日ちゃんと帰っているかチェックするぞ~! と脅かされていてちょっと可哀想・・・。初めての日本語検定試験が12月にあります。コツコツと勉強して来た成果が実りますように!
 
 
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テンモーの借りた部屋。結構ベランダが広いです。

 
ミルクも学校の近くに部屋を借りました。チェンマイの旧市街にあるアパート。彼女はもう20歳。まずは週末に部屋を片付けながら、足りないものの買物に出掛けるそうです。
今日ミルクは学校へ行く前に、ガジュマルの木にある祠に長い間手を合わせていました。この12年間の辛いこと、楽しいことを彼女なりに思い出していたのだと思います。少し大人びた、でもまだまだ子どもっぽいところもあるミルクと、たわいもない冗談を言い合うことが出来なくなるのかと思うと、猛烈寂しいです。そしてダム、ケンチャン、パンダの犬3匹(私の犬も入れて4匹)は動物好きのミルクが大好き。ケンチャンは何故か朝から引越し荷物の横に寝ていました。寂しく感じるのは犬たちも一緒です。
  
 
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朝、ガジュマルの木の祠に手を合わせるミルク

 
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ミルクの借りた部屋。街中ですがセキュリティはしっかりしていました。

 
今回の年長組6人は、バーンロムサイから外に出て暮らし始める第一号。でもまだ完全な自立ではありません。学校を卒業し仕事を始め、自分の稼いだお金で生活できて初めて私たちの目標としている子どもたちの「自立」になります。そして今日はそのための大切な「自立への一歩」を踏み出したのです。
 
 
小さいころから大人数の中で暮らし、学校と家との往復で、国やホームの規則の中で普通の家の子どものような「自由」がなかった彼らにとって、ホームを出て一人暮らしをすることは相当な解放感だと思います。そしてそれと同時にいつも誰かに守られ、帰れば暖かいご飯があり、皆で出かけたり、ホームの中で遊んだり、喧嘩したり笑い合ったり、怒られたり褒められたり・・。きっと初めての一人暮らしは、楽しいこともあり寂しいことも辛いこともあると思いますが、何かあったらいつでも相談出来る父母や兄弟姉妹が居ること、「安心できる実家」がここにあることを外に暮らして初めて彼らは実感するのではないでしょうか。そして彼らの命を守る薬だけは、どんなことがあっても忘れずにきちんと飲んで欲しいと、一人一人のこれから住む家に荷物を運び入れるのを見ながら思ったのでした。


もうすぐリニュアルするホームページ。18歳を過ぎた子どもたちと話をし、彼らの意志を尊重し、またプライバシーの問題を考え、この先ホームページ、印刷物、映像には18歳以上の子どもたちの写真を出さない事にしました。小さい頃から彼らの成長を共に喜び、バーンロムサイを支援してくださっている多くの方々に、ミルクやナットたちの現在の成長している姿を見て頂きたい気持ちはありますが、やはりHIV/AIDSへの差別と偏見は社会の中に根強く残り、バーンロムサイから切り離した形で暮らせるようにしてあげることも、彼らの自立をサポートするための大切なことなのです。日記などで時々外に暮らす彼らの様子はご報告しますので、どうぞご理解くださいますようお願いいたします。

今頃一人で部屋の片付けをし、明日の学校の準備をし、きっと彼らは疲れ果てていることと思います。すでに寂しくて泣いている子もいるのか?!あるいは「やった~!」と解放感に浸っているのか?!

今日は、何とも嬉しくて、そして何とも寂しい1日となりました。でも大切な自立への一歩を踏み出した日なのですから、喜ばないと・・ですね・・・。寂しくて泣いているのは私たち大人の方かも。
 
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麻生 賀津子|2011/11/01 (火)

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