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教育システムの違い

新学期も始まりバーンロムサイの子どもたちもみんな元気で学校に通い始めました。そもそも人は何のために学校に通い教育を受けるのでしょうか?
「気持ちの良い自立した大人に育ち、社会で何らかの役に立つ人材となるため」であって欲しいものですが、なかなかそうはゆかないようです。

私は16歳から50歳までの間の15年ほどをドイツで暮らしました。また娘も幼稚園から大学入試試験を受けるまでは日本のドイツ学園で学び、その後ドイツ本国の大学で5年間学びました。その頃と今では多少教育事情も様変わりをしているかもしれませんが、基本方針はそれほど変わっていないはずです。今日は私が知っている範囲でのドイツの教育システムについて書いてみます。

そもそも日本の国の教育方針は大雑把に言って「なるべく多くの人たちに大学教育を受けさせる」。その政策が功を奏し今では高校進学率は97%。そして大学、短大への進学率は50%強。ドイツでの大学進学率は20%程です。

まずこの二つの国の大きな違いはドイツでは「子どもの教育は国の責任」と考え小学校から大学まで学費が無料。その為ドイツ国民は教育、医療、福祉目的に日本に比べ高額な税金を収めざるを得ないのも事実です。そして日本では私学が多くまた教育産業がとても盛んで、その業界で働き日々の生活の糧を得ている人が多く居るのも事実です。

日本では小学校から中学、高校(専門高校、工業高校)大学(短大)と言うコース1本を通し、広く浅く多くの人たちに一般教養を身に付けさせようと言う考えですが、ドイツではどちらかと言うと、専門職、技術者、その道のプロを育成しよう、と言う教育方針です。小学校4年生まではすべての生徒は州によってその内容は多少違いますが数学国語と言った基礎を学びます。そして4年生10歳の時、将来進みたい道を決めなくてはなりません。この判断はどちらかと言うと親の判断となります。

大学に進むギムナジウム進学。実技を身につけるリアルシューレに進むか、または基礎学校ハウプトシューレに進学するか、この三つのコースの中から選ばなくてはなりません。義務教育は小学校入学から約9~10年。何故ここに差が出てくるかと言うと、ドイツでは教育の方針は各州の文部省に一任されているのでその州または学校の種類によって差が出てきます。こまかく説明をすると大変長くなってしまうのですが、もしも10歳の時に勉強が嫌いなので手に職を付けるため実技を学ぶリアルシューレに行ったが、その後勉強が面白くなり、大学に行って建築の勉強したいと思った場合、他のコースへの乗り換えも可能です。また実際社会に出、働き出してからもう一度勉強したいと言う人の為にもいろいろな道が用意されています。その多くが無料または些少な金額で勉強が出来、資格がとれます。

日本国内の小中高の生徒の不登校生徒数は15万人程、また高校進学率がこれほど高いのに学費がかかる、その為勉強したくとも学費が払えず退学を余儀なくされる高校生や、アルバイトをしなくては学校に通えない生徒も多くいると聞いています。まずは義務教育を高校3年までとし、学費を無料にすることから始めるべきなのではと思います。そしてこれほど教育産業が盛んであると言うのは、国の宝であるべき子どもがお金を生む対象となっているわけですから、何かヘンです。

学費が無料であると言う事一つとっても私は明らかにドイツの教育システムの方が良いと思います。また勉強したくなった時にいつでも勉強を再開することができ、学びたいことが変わっても変更が可能、また実技を実際に工場で週に3日習い工場から給料を貰い後の2日は学校で勉強をしていれば、卒業後すぐに即戦力になるので、これは雇っている中小企業にとってもよい条件です。また大学で勉強をしている間の生活費を国から借りることが出来、卒業後稼ぎ出して数年目から無利子で返済すれば良いと言った学びたい人をサポートするシステムが確立している等がその理由です。

実際に私の娘はドイツの大学に5年間在籍し卒業しましたが、その間大学に支払った金額は年間当時40マルク(約4000円)の健康保険料のみ。外国人であっても本国ドイツ人と全く同じ条件で大学に通う事ができます。そして大学最後の一年は勉強しながら、給料をもらい働けたおかげで、就職したその日から実践力となったようです。日本で苦学している海外からの留学生の話を聞くたびに何とドイツは懐が深いのかと感心します。

自分の言葉で意見を述べることが出来、人を思いやるやさしい心をもち自立した人間となるにはやはり教育が必要です。これは欲張りすぎかもしれませんが、少なくとも国の教育方針を確立し、何を目的に子どもたちを教育するのかを大人がまずそのコンセンサスをしっかり確立させる必要があります。今のようにともかく必死で、お金をかけ塾に行かせ、よりよいと思われている有名校に入学をさせ、勉強したと言う実績より、どこそこの大学を出たと言う事の方にウエイトを置き、本人も自分がやりたい事をやるために頑張ると言うよりも、安定した生活を求め就職したいと考え、就職後35歳くらいで30年、40年のローンを背負ってでも自分の家を持たないと男じゃないと言った風潮がある限りなかなか教育システムとその内容を変えることは難しいかもしれませんが、社会は様変わりをしてきましたし、少しずつ若者たちも何かヘンだぞと思いだしてきたのではないでしょうか。

ともかく一般教養を身に付け大学を卒業した(それさえもこの頃の日本では問題ですが、、)若者を何年もかけて会社が使える社会人に育てるのではなく、技術、技能を在学中に学び、卒業と同時に即戦力となればどれだけ会社=社会の経済的な負担が軽くなるかをこれからの時代考える必要があると思います。その為にはもっと技術高校や専門高校を充実させ、社会的にもそのシステムを確立させ、大卒の方がベターと言う風潮を改めなくてはなりません。勿論国を動かす政治家や外交官、医者や学者になりたい人の為の大学は今以上に質を上げそれはそれとして必要だと思います。

好きな事なら勉強したい若者は居るはずです。退屈でおもしろくもなく自分に興味のない授業を高校3年間受けるよりも、なんであれ自分の学びたい事にその3年間を使った方がどんなに本人、そして社会の為に有効か、、、不登校生も減るのではないでしょうか。

ドイツの教育システムが100%であるとは思いません。しかし「子どもは国の宝、その為の教育は国の責任」と考え、国が一方的にその方針すべてを押し付けるのではなく、それぞれの州がその州にあった教育方針を自分たち独自で決められるところを残しておく、この事に関して、私は日本も見習うべきだと思います。沖縄と北海道ではその風土や地域性も事なり求められる人材も違うはずです。

そして今、受験の為の暗記勉強が中心の日本の教育システムと学校そのものの在り方、そしてその教育内容を見直す必要な時が来たのだと思います。あの定額給付金2兆円を子どもたちの将来=日本の将来を見つめ、もっと有効に使う事が出来なかったのかと思うと、、、残念です。

バーンロムサイの子どもたち3名が今年高校に進学しました。タイでも今は教育ブーム、高学歴を求め大学に子どもを入れたい親の数は増えているようでし、せめて高校は出ていないと、、、との風潮です。でもバーンロムサイの子どもたちには、その子その子に合った仕事をもち、楽しく気持ちの良い人生を送ってほしいと、今でも願ってはおりますが、、、、

(写真は一昨日の夜の羽蟻の大群、よく見るととても綺麗です。)

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名取 美和|2009/05/20 (水)

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