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信心深いタイの人たち

090419.jpg 今週の火曜日、チェンマイ市街地まで子どもたちを連れて、ソンクラーン(タイ正月)の水掛け祭りに参加してきた。チェンマイ中心部には、古い城壁に沿って濠があるのだが、水掛けにやってきた人たちは皆、そのよどんだ濠の水を容赦なく汲み上げて使うため、濠の一帯は水掛け祭りのメッカとなっている。僕たちもその激戦区の一角に陣を取り、お祭り騒ぎに呑み込まれていたのだが、そこでちょっと驚くべき体験をすることに。僕が水掛けに熱中していると、近くにいたタイ人の男の人が不意に、「あそこで人が溺れているぞ!!」というようなことを叫んだ。瞬時に振り返り、彼が指差す方に目を向けると、人の頭が濠にプカプカと不自然に浮かんでいるのが目に飛び込んできた。ちょうどホームの子どもたちもそのすぐ近くで泳いでいたため、とっさにその不気味な頭の主は子どもたちの誰かだと思い、すぐさま濠に飛び込み、その頭まで泳ぎ着いた。僕とほぼ同時に西洋人の男性も一人、同じように飛び込んできてくれた、何の身動きもしない頭部を急いで二人がかりでひっくり返してみると・・・それはホームの子どもではなく、まだ若いタイ人の男性であった。すでに亡くなっていた。そしてその水死体を抱きかかえ、どうにか岸へと引き上げると、その後は警察がすぐに駆けつけて来たため、僕はそこでお役目終了となったのだが・・・。

 あっという間に野次馬で騒然としてしまった現場で、僕たちは水掛けどころの雰囲気ではなくなり、すぐに帰り支度を始めることになった。その間、まだ少し動揺の収まらない僕は呆然としていたのだが、一方、事の一部始終を目撃していた子どもたちの興奮のボルテージはぐんぐん急上昇。僕の心の動揺などお構いなしで、矢継ぎ早に質問の嵐が始まった。「怖かった?」に始まり、「死体に触ってどんなかんじだった?」とか、「聞いて!アタシが見た時にはもう頭が浮いてて、そしたら今度はね・・・」と、右から左へと抜けざるを得ない状況。

 それでもホームへの帰路につく頃には、僕もすっかり平常心を取り戻し、お気楽に飲み食いをするまでになっていた。しかしそんな僕をよそに、この件を深刻に気にしていたのは、他でもないタイ人スタッフたち。子どもたちを乗せ、僕の運転する車がホームに入るなり、先に到着していた保母さんたちや、事件を聞きつけたプロイさんが駆け寄ってきて、車の進入を制止。真剣な表情で「全員この水を浴びて、身体を清めなさい。最後はこの車もよ!」と、お清め用の水(お寺のお参りなどで使う特別な水らしい)を大きなバケツに並々と準備して待っていた。さらに「明日は必ずお寺に行くのよ」ということで、翌日は本当に子どもたちと一緒にお寺巡りをすることに。一夜明けた保父のコムさんは「遠目で見ていただけなのにあの姿が目に焼きついて、夜眠れなかったよ。ポー・ヨーは何ともないのかい?」とその恐怖の深さを語った(ちなみに僕はぐっすりと安眠)。縫製場のおばちゃんたちからは、「良いことをしたね。大きな徳を積んだことになるわ」と口々にお褒めの言葉を頂いたのだが、ロットさんだけは「早速宝くじを買いなさい。きっと今回は当たるわよ」とちょっと拍子抜けしそうなアドバイスをくれた。

 とにかく今回の稀有な出来事には、僕自身も確かにとても驚いたのだが、それと同時に、タイの人たちの持つ、死に対する忌み嫌いや、さまざまな信心深さを垣間見ることができ、そちらの方が興味深かった。僕の中ではこの一件は、ちょっとした事故に遭った、くらいに捉えていたのだが、大人でもお化けを本気で怖がるタイの人たちにとっては、ちょっと信じられない、といった様子であった。

小宮 陽之助|2009/04/19 (日)

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